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「ねぇ、今日泊まっていきなよ」
その一言を断るべきだった。
いや、正確には断れなかった。
だって相手は、私の大好きな友達だったからだ。
ただし、その友達にはひとつだけ問題がある。
めちゃくちゃくすぐりが好きなのだ。
しかも、ただ好きなだけじゃない。
「人の弱点を見つけるとテンションが上がる」という、完全にハンター気質のタイプである。
そして私はくすぐりに異常に弱い。
ほんとうに、笑えないくらい弱い。
脇腹なんて触られた瞬間に飛び上がるし、おへそ周りなんて「やめて!」と言う前に声が裏返る。
なのに、なぜか昔から標的にされる。
「え、そんな弱いの!? ちょっと貸して!」
みたいなノリで人生が始まり、そこからずっと試されている。
その日も、友達の部屋でのんびりしていた。
コンビニで買ったお菓子を食べながら、恋バナをして、動画を見て、もう夜中の一時くらい。
「そろそろ寝る?」
「うん、眠い〜」
そう言って布団に入った。
私は完全に油断していた。
数分後。
「……ねぇ」
「ん?」
「起きてる?」
嫌な予感がした。
でも、もう遅かった。
ふっ、と脇腹に指が入った。
「ひゃっ!!!」
身体がベッドから跳ねた。
「やっぱり!!!!!」
友達が爆笑している。
「ちょ、やめ、ほんとやめて!!」
「えー? まだ一回しかしてないじゃん」
そう言いながら、また脇腹をこちょこちょしてくる。
私は布団の中でエビみたいに丸まった。
「むりむりむり!!」
「待って、弱すぎん?」
友達は完全にスイッチが入っていた。
そこから地獄が始まった。
「次ここ」
指がおへその近くをなぞる。
「だめっ!!!!!」
笑いすぎて息ができない。
「ここは?」
太もも。
「やっ、あはははは!! むり!!」
「え、じゃあ足裏は?」
「それだけはほんとに無理!!!!」
もちろん、聞いてくれるわけがない。
靴下を脱がされた瞬間、私は終わった。
「待って待って待って!! 心の準備!!」
「そんな制度ありません」
こちょこちょこちょ。
「ぎゃーーーーー!!!!!」
自分でも引くくらい暴れた。
布団を蹴飛ばし、枕を投げ、笑いながら涙が出る。
「ちょっと動かないで!!」
「無理だって!!!!」
でも、友達の力が強すぎた。
片手で足首を押さえられる。
なんで女子って、くすぐる時だけ急にフィジカル強者になるんだろう。
しかも彼女、妙に研究熱心だった。
「ここは?」
「ひゃっ!」
「ここ?」
「あははは!!」
「なるほど、太ももの内側かなり効くね」
分析されている。
私はもう、人間ではなく研究対象だった。
そして最悪なのは、彼女がひとりじゃなくなった時だ。
途中で、別の友達がトイレに起きてきた。
「なにしてんの?」
「この子の弱点探してる」
「え、混ぜて」
混ざるな。
なんでそんな自然に参戦できるんだ。
「押さえてて!」
「オッケー!」
終わった。
完全に終わった。
左右から脇腹を攻撃され、足裏をこちょこちょされ、私は布団の上でずっと「やめて!!!」しか言えなかった。
笑いすぎると、人って途中から酸欠みたいになる。
「あっはははは!! むり!! 死ぬ!!」
「大丈夫、生きてる生きてる」
「生きてない!!!!」
しかも、暗闇のくすぐりって怖い。
どこを触られるかわからない恐怖がある。
次は脇かもしれない。
おへそかもしれない。
太ももかもしれない。
その“予測不能”が、一番効く。
「ここは?」
突然、パンツの中に手が入ってきた。
「えっ!?!?」
もう、ほんとうに声が出た。
「ちょ、そこ反則!!!!」
「ここ弱そうじゃない?」
「やめ、あははははは!!!!」
完全に終わった。
身体が跳ねる。
逃げたいのに逃げられない。
笑いすぎて涙で前が見えない。
「待って、ほんと無理、お願い!!」
「降参?」
「する!! するから!!!!」
でも、こういうタイプは、降参しても止まらない。
「ほんとに?」
「ほんと!!!!」
「信用できないな〜」
「なんで!?」
結局、私が解放されたのは、その数分後だった。
私は布団の上でぐったりしていた。
髪はボサボサ。
息は切れてる。
腹筋は痛い。
「……最低」
そう言うと、友達はケラケラ笑いながら言った。
「でも楽しそうだったじゃん」